やらない夫先生の3つの問いかけ。
作者:◆u5JNPaH7zJXF氏
あんこ及び安価を併用して進行するスタイルの作品。
A級冒険者のやらない夫は未開のダンジョンの探索中、偶然見つけた脇道にて神と遭遇する。予想外にフランクな口調で語りかける神は、ソロ冒険者として無理な活動を続けていたことでやらない夫の身体は死の一歩手前であることを告げ、引退を勧められる。身体の不調については自分自身でも思い当たる節があった為か、半信半疑ながらもその助言を受け入れるのであった。
そして神はやらない夫の去り際に3つ”の問いかけを困ったときの道しるべとして忘れぬよう意味深に念押しを重ねた。
あらすじ
惜しまれながら引退するA級冒険者やらない夫

物語の序盤から主人公が体調不良によって現役リタイアを宣言するというのが本作のつかみ部分だろ

A級冒険者とかいう凄そうな地位まで上り詰めた割に引退することには抵抗が無さそう、というか随分とあっさりした様子だお

もともと妹との平穏な暮らしの為に仕事を頑張ってただけに過ぎないから、周囲の評価なんかにはこだわらない性格なんだろう

とはいえ真面目な性格かつ、パーティ前提の冒険者稼業をソロで続けられるほどの卓越した実力を持つやらない夫はギルド職員や、身近な冒険者からの評価は高く、惜しまれながらの引退を飾ることとなった

傍から見ればもったいない様な気もするけれど、命あっての物種だから仕方ないお

なんせ神らしき存在から直々に「不健康だから辞めとけ」って言われてるぐらいだからな
初日から千客万来

過去の功績によって好立地な道場を借りることができ、意気揚々と道場に足を踏み入れたやらない夫だが、そこには不法侵入者とその子分、ギルドから派遣されたハウスクリーニング、訪問先を間違えた宅配サービスと暗殺者が訪れたりと開業初日から道場は大賑わいとなる

そこで神からの助言を思い出したやらない夫は集まった面々に”3つ”の問いかけを投げかける

苦手な事、将来の目標を尋ねる問いにそれぞれが嬉々として自らの事を語っていくが、「俺の弟子になる気はあるか?」という最後の問いがその場に静寂をもたらした

しばしの逡巡の後、嘴平伊之助と新条アカネの二人がこれに手を挙げた

強そうなやらない夫に素直に教えを乞う伊之助とあまのじゃくで距離感が掴み辛いアカネの二人を弟子に迎えることでやらない夫の先生としてのセカンドライフが本格的に始まるだろ
名冒険者、名教師にあらず?

ソロ冒険者として一線級で活躍したやらない夫。実力は確かだが、果たして教師としての腕前はいかがなものか

パーティ行動前提のところをあえてソロに拘ってたあたり、コミュニケーション能力に問題が有りそうな気がするお!

実際その通りで、教えている内容自体は本質を捉えたものなんだが、事前の説明不足が原因でアカネとひと悶着起こしたりもするだろ

上のワンシーンは弟子への教育方針を元同僚(A級冒険者)であるジョセフらに相談した際に、やらない夫の言葉足らずで天才肌な一面をジョセフなりに冗談まじりに揶揄した発言だ
作品の魅力

この作品の魅力は「ソロであったが故にやらない夫自身これまで無自覚であった非凡すぎる実力が徐々に明らかになっていくところ」だろ

自分の中では当たり前だと思ってたレベルのことが実はかなり凄かった、的な感じかお?

やらない夫の強さの極意は「魔力の循環」という技術を常に100%の高精度で扱い続けることによって、爆発的な身体能力を得たり高度な魔術を使用することにあるのだが、一般的にはこの有用性は浸透していない

そんな凄いことができるようになる技術がなんで一般に知られていないんだお?

何故なら「魔力の循環」とは魔術を扱う人間にとっての準備体操的な位置づけにあり、上手く扱えるたところでメリットは特にないと考えられているからだ

実際には体力の温存や魔術運用の効率化といったメリットが存在し、応用に至ればやらない夫の様に非凡な能力を獲得することもできるんだがな

一部の冒険者の中ではそれらのメリットも認知されてはいるが、パーティを組んで互いをサポートするのが前提であることや、習得難易度の高さを理由として優先度の低い項目として一般認知されているんだ

常にソロで活動していたやらない夫だからこそ「魔力の循環」を磨く必要が生まれ、その先の領域に気づくことができたという訳だ

それだけ大した実力のやらない夫が四苦八苦しながら弟子を育てていったり、周囲とのコミュニケーションに苦労している様子なんかはギャップが有って面白いお
最後に

周囲とのコミュニケーションによって少しずつ明かされていくやらない夫の強さや、その特異性といった面にも注目して欲しい所だが、本作の主題である先生として弟子を育てていく過程についても順を追って丁寧に描写されているのが本作の魅力の一つでもある

個として完成している様に見えて意外と天然で抜けている所もあるやらない夫先生や、強さへの憧れを持ちつつも素直に師を慕う可愛げのある伊之助、やらない夫に対して忌憚なく発言するアカネ、そして少し遅れて入門する苦労人の白銀御行。それぞれ個性的な面々が徐々に深い信頼関係を築きながら共に成長していき、物語終盤においては弟子たちがやらない夫を助けていく展開にも繋がるのは非常に感慨深く感じられるだろ

50話弱の程よい文量でもあり、冒険者ものが好きな人にはオススメしやすい作品だと思う。是非読んでみて欲しい。